★本編★

其ノ拾弐、愛(R18)

【主要登場人物】
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【その他登場人物】

*CP*
幻洛×伊丹(BL)※R18

——————————

月の光に照らされた伊丹の自室。
青白く輝くその空間には、不思議とどこか暖かみがあった。

「幻洛さん。」
自室に戻ってきた幻洛に、伊丹は布団の上に座りながら上目で声をかける。
「あの、僕はこういう行為については本当に無知で…、幻洛さんが満足できるか…。」
不安そうな表情で、伊丹は浴衣の裾を軽く握る。

伊丹はこれまで、恋愛という意味で誰かを好いたことが一度も無かった。
故に、その延長線上にある行為というものも、興味関心すら無かった。
今、その事について胸が高鳴っているなど、少し前までは考えもしなかったことだ。

誰かに恋をする。
そういった意味では、長年の愛弟子であるふゆはに対して、このような感情を抱いても不思議ではなかったはずだ。
それは血の繋がらない異性であれば尚更自然な事だ。
しかし伊丹にとって、ふゆはは純粋な愛弟子であり、自分の娘同然の存在でしか見えていないのだ。
故に、ふゆはの存在を恋愛対象として見るなど、伊丹にとっては出来ないことだ。

自分は、生まれながらにして普通ではない。
その現実に、伊丹は表情を曇らせる。

「そんな事を悩んでいたのか。」
雲から姿を現わす陽の光のように、幻洛の声が降り注ぐ。
「満足出来ようが出来なかろうが関係ない。俺は今、伊丹が心も身体も委ねてくれている。…それだけで最高に幸せだ…。」
伊丹の隣に座り、そのまま細い腰を引き寄せる。
近くに感じる幻洛の香りに、伊丹は不思議と心が安まる。
「幻洛さん…。」
その存在を確かめるように、伊丹も幻洛の背へ手を回す。

「…伊丹…。」
幻洛はそのまま伊丹を布団の上へ優しく横たえる。
留め具を外された伊丹の艶々した長い髪が、布団の上でさらっと広がった。
「…。」
不安と少しばかりの期待が含まれた伊丹の眼差しが、遠慮がちに幻洛へと向けられる。
幻洛はその眼差しを捉え、うっとりと見つめ返す。

ああ、伊丹…、綺麗だ…。

恥じらい、赤面する伊丹の中性的な顔立ち。
そんな愛しい嫁の表情が月の光に照らされ、一層魅力を増した光景に幻洛の心は高鳴った。

するり、と、幻洛は伊丹の浴衣に手をかける。
「あっ、待って…」
突然、伊丹は思い出したかのように幻洛を制止する。

伊丹は何かを唱えながら軽く手を振り上げる。
途端に、部屋の扉や窓が重く軋む音が鳴り響く。

「術か…?」
驚いたように、幻洛は尋ねる。
「戸が開けられないように、術で固定しました…。それと、物音を遮る術も…。」
「何だその都合の良すぎる術は。」
「あくまで怪異から身を守るための術です…!本来は、こんな使い方をすべきではありませんが…。」
ボソボソと、伊丹は口籠る。
伊丹自身、幻洛との貴重な時間を気移りせず過ごしたい思いがあった。

もはやこの空間は、二人きりの世界だ。

「なら存分、お前を喰らって良いということだな…?」
幻洛はいつものようにニヤリと口角を上げ、長い前髪が行為の妨げにならないよう留め具で固定する。
ギラギラと黄金に輝く両目が、雄の欲を潜ませながら伊丹を見据える。
「…嫌だったら、ちゃんと言えよ…?」
「ん…」
幻洛は伊丹の浴衣の帯に手を掛ける。
目の前で刻一刻と進む行為に、伊丹の鼓動は徐々に早まった。

するり、と浴衣の帯が解かれたところで、伊丹はふと、ある疑問を幻洛に問う。
「…幻洛さんは、こういう経験はあるのですか…?」
こんな事を聞くのは些か配慮のないことだろう。
わかってはいるものの、伊丹は少しでも幻洛の過去を理解しておきたかったのだ。

幻洛の手の動きがぴたりと止まる。

「…実務的に言えば、ある。」
その言葉に、伊丹の心がチクリと痛む。

…ああ、やはりそうか。
幻洛さんは僕とは違い、男らしく頼りになる方だ。
そんな彼に堕ちる者など、僕以外に居ても不思議では無い…。

ある程度予想していた回答に、伊丹は少々複雑な心境に陥った。

「…遠い昔、こういうことに興味を持ち始めたガキの頃にな。好いてもいない、遊び目的で近づいてきた女と、快感も幸福感も無いその場限りの一夜を過ごした。」
淡々と話していた幻洛は、何かを思い出したかのように嘲笑った。

「俺が本心を閉ざす切っ掛けを作った奴の一人だったな。」
「!」
思いもよらぬ言葉に、伊丹はハッとする。

「すみません、変なことを思い出させてしまって…。」
「フッ…伊丹は何も悪くない。そんなヤツに一夜を許した俺が愚か者だっただけさ。」
「そんな…。」
完全に、彼の地雷に当たってしまった。
なんて愚かなことを尋ねてしまったのだろうか、伊丹は自分自身に毒づく。

本心を閉ざしたきっかけを作った者。
それでも、幻洛は決してその者を責めることは言わなかった。
あくまで見抜けなかった自分が悪いのだ、と。
そんな幻洛に、伊丹は心が締め付けられた。

「それ以来、誰かと情交をすることも完全に絶ってきた。」
過去の古傷を蒸し返しても、幻洛は笑顔のままだった。
むしろ愛おしそうに、伊丹の柔らかな狐耳を撫でる。
「故に、こうして好いている者とするのは…初めてだな…。」
「っ…!」
愛する者と、心で繋がる。
その初めてが自分であることに、伊丹は複雑な心境ながらも確実な”幸せ”というものを感じた。

今、途轍もなく、彼が欲しい。
じんわりと、伊丹の身体の奥底で熱が上がる。

「あっ…」
幻洛は首筋、肩、胸、腹部へ口付けを落としながら、伊丹の着ている浴衣を乱れさせていく。
「ん、ぅ…幻洛さん…」
はらり、と浴衣が全てはだけ落ち、包帯の巻かれた白い肌が晒される。

遮るものがなくなり、伊丹は恥ずかしそうに頬を紅潮させる。
その光景に、幻洛はゴクリと生唾を飲んだ。
「綺麗だな、伊丹…。」
うっとりと、幻洛は伊丹の普段隠された素肌を舐めるように眺める。
その金眼の奥底には、これから獲物を喰らう獣の欲が静かにギラついていた。

するり、と伊丹の素肌の滑らかさを堪能する幻洛の大きな手。
胸周りを執拗に撫で回され、もどかしい感覚に伊丹は身をよじる。
「んっ…こんな…包帯で巻かれた身体など…。」
この包帯の下は、呪いで蝕まれている痣だらけだ。
魅了される要素なんてないはずだ、伊丹はそう思っていた。
「ああ、確かにその呪いの痣は称賛することは出来ない。」
一際低い声で、幻洛は答える。
「だが、俺が抱きたいのは”伊丹”そのものだ。たとえ身体に包帯が巻かれていようが関係ない。その呪いも含めて伊丹を喰らうことができるならば、…最高に興奮する。」
「…もう、本当に物好きな方なんですから…。」
呆れたように、伊丹は言い放つ。
それでも、そんな幻洛のことが伊丹も愛おしくて仕方がなかった。
物好きなのは僕の方かな。
そう思い、伊丹はフッと微笑した。

伊丹の浴衣を剥いだところで、幻洛も身に纏っている浴衣を脱いでいく。
幻洛の上半身が露わになり、伊丹は思わず息を飲んだ。

初めて見る幻洛の逞しい肉体美を目の前に、伊丹は眩しそうに目を細める。
これから、この身体と自分の身を重ねるのだ。
ドクンドクン、と、伊丹は心臓が速まった。

「…傷が…。」
「これか?」
幻洛の身体には、これまで戦ってきた戦士の証が大きく刻まれていた。
傷跡の一つに、伊丹の細い指がそっと当てられる。
その感覚に、幻洛の心臓も少しばかり速く脈打つ。

「…まあ、用心棒として務めている以上、こういった傷は付き物だからな。」
ナギや裂も同様に、用心棒は常に危険と隣同士だ。
幻洛はその覚悟をした上、万華鏡神社、村、大切な仲間、そして伊丹を守るために用心棒となった。
怪我や恐怖に怯えては、用心棒を語れない。

つい先日、あの邪鬼の少年と対峙した際に負った傷も、真新しい傷跡として残っていた。
伊丹を庇ったことにより負った、消えない傷跡。

あの時、僕が居なければ、彼は…

「あまり余計なことは考えるな。」
先を読んでいたかのように、幻洛は伊丹の思考を遮る。
「俺にとって、この傷跡は一番大切な証だ。…あのとき伊丹を守ることができた、そう思えるからな…。」
幻洛はフッと笑いながら、自身の肩の傷跡を押さえる。

この先も同様の危険がないとは言い切れない。
だからこそ、この傷跡は特に大切な記憶として覚えておかねばならない。
これからも、大切な者を守る為に。

幻洛はそのまま、伊丹が身につけている下着を取り払う。
羞恥故に伊丹は少し抵抗したものの、幻洛を拒むことはなかった。

見間違い、ではなかったか…。

そこには儀式の間で見たものと同じく、雄に隠れるように雌の性器が潜んでいた。
「…。」
「そんなに見ないで下さい…。」
無言でまじまじと見られ、伊丹は恥ずかしそうに脚を閉ざす。
それでも全ては隠しきれず、脚の間から熱くしっとりと濡れた伊丹の雌が、ヒクヒクと物欲しそうに幻洛を誘惑しているのが見えた。

「っ…」
カッと、幻洛は下半身に熱が集中した。
ムクリと雄の硬さが増し、幻洛の下着を圧迫し始める。

「伊丹…、今まで雌の性器を持っていて違和感はなかったのか…?」
「…いえ、本当に…、僕はコレが普通だと…。」
「そうか…。」
誰も知らない伊丹の身体を、今から自分が喰らい味わっていく。
沸き立つ雄の本能に、幻洛の理性が静かに乱れ始める。

「やっ、ん…!」
じんわりと濡れていた伊丹の雌に、幻洛の太い中指が悪戯に触れる。
突然の刺激に甲高い鳴き声を上げてしまった伊丹は、咄嗟に唇を噛み抗う。
「んっ…!げ、んらく、さん…」
「大丈夫だ…よく慣らしてやる…。」
ぬちぬちと入り口を弄ぶ幻洛の指。
その刺激を追い求めるように、伊丹の雌は次第に愛液を増して更に幻洛を誘う。

「あっ…!」
ぬぷ、と幻洛の指がゆっくりと入り込む感覚に、伊丹は短く声を漏らし腰を跳ね上げる。

ぐ…っと、伊丹の中に幻洛の太くゴツゴツした中指が侵入していく。
熱く、柔らかな伊丹の雌が、幻洛の中指を求め絡みつく。
緊張する雌を解すように中指を動き回すと、伊丹の愛液が更に増え、卑猥な音が部屋に木霊した。

「っ…、ふ…」
雄の全てを刺激される光景に、幻洛は口の裾を上げ、耐え忍ぶように息を漏らした。

「…さて、何処がいいところなんだ?」
幻洛は指を増やし、誰も触れたことのない伊丹の中をぬちゅぬちゅと押し広げていく。
「んん…っ」
伊丹は布団を掴み、唇を噛み締めながら、はしたない声を上げまいと必死に耐えた。
「…どこまでも素直じゃないヤツだ。…ようやく、お前を手に入れたんだ。伊丹の気持ちいいところが知りたい…。」
幻洛は伊丹の狐耳に唇を寄せ、舐めるような重低音の声で囁く。
身体中に、幻洛の声が振動する。
伊丹の肩から腰が跳ね上がり、ぎゅっと幻洛にしがみついた。

「あ、っ…!んぅ…!」
差し込んだ指を更に奥へ進め嬲ると、伊丹は声を押し殺しながら身体を強張らせ、幻洛の指をきゅうきゅうと締め付けた。
己の指に雌が食い付いてくる感覚に、幻洛は涎が出そうになるのを耐えながらニヤリと口角を上げる。
「ああ、ここが好きか…。成る程、よく締め付けてくるな…。」
「っは…、ん、そんな…、言わないでください…」
中で幻洛の指が激しく差し抜かれる感覚に、伊丹は狐耳をぺたんと下げ、火照った身体に息を乱れさせながらビクビクと身体を震わす。
初めてのことの為か、普段からは想像もつかない程しおらしくなってしまった伊丹に、ごくり、と幻洛の喉が鳴る。

「っん…!あ…」
散々伊丹の中を弄んでいた幻洛の指が、ぬちゅ、と卑猥な音を立てながら引き抜かれる。
幻洛の指が伊丹の愛液で濡れそぼり、銀色の糸を引いていた。

幻洛はギラギラした金眼で伊丹を見下ろしながら、伊丹の愛液で濡れた自身の指を獣のようにベロベロと舐め回した。
見せつけられるようなその光景に、伊丹は全身がカッと熱くなり、羞恥に染まった赤い顔を背けた。

幻洛の指が引き抜かれた伊丹の雌が、愛液で濡れながらも寂しそうにヒクヒクと熱く疼いていた。

「っは…」
限界と言わんばかりに、幻洛は息を荒げながら半分脱いでいた浴衣の帯を解く。
「…!」
幻洛の下着の内から勢いよく現れた雄に、快感に溶けていた伊丹の顔が引きつる。
「…なんだその化け物を見たような顔は。」
「い、いえ…。」
いつの間に、このような事になっていたのだろうか。
その逞しい身体に比例するように、幻洛の雄も非常に立派なものだった。
太く勃ち上がり、血管を浮かべ、ドクドクと脈打つ雄に、伊丹は恥ずかしいと思うも目が反らせなかった。

「挿れて、いいか…?」
「…は、入る、んですか…?僕の中、に…?」
幻洛は答えず、伊丹の脚を持ち広げ、その間に入り込む。

伊丹は思わず腰を引いた。
「っ…!」
「…こら、逃げるな…。」
そんな伊丹の行動も虚しく、幻洛にがっしりと腰を捕まれ、逃げられないよう固定される。
「…うぅ…、」
とてもではないが、伊丹は半分も入る気がしなかった。
それ程まで太く勃ち上がった幻洛の雄に、ただただ圧倒されていた。

「伊丹…。」
苦しそうに、幻洛は伊丹の名を呼ぶ。
「どうしても苦しくなったら…、術でもなんでも使って俺を止めてくれ…。」
「…!」
「なるべく負担はかけないよう心得る。…だが、情けないが耐えられる自信がない…。」
幻洛は伊丹の上に覆いかぶさり、首筋に顔を埋めながらふうふうと息を荒げる。
崩壊しそうな理性を保ちながら、幻洛は口を開いた。

「…伊丹の中に挿れたい…。思い切り揺さぶって…溢れるくらい中に出したい…。」
幻洛は覆いかぶさりながら、ぎゅっと伊丹を抱き寄せる。

内も外も、傷跡だらけの幻洛の温かい身体が密着し、伊丹の思考はいとも簡単に蕩けた。
ぼんやりとした思考の中、伊丹は幻洛の言葉を思い出していた。

『俺はもう、伊丹以外の者を愛することが出来ない。』
『こうして好いている者とするのは…初めてだな…。』

すなわち、後にも先にも、幻洛が愛に溺れるのは、もう伊丹しかいないのだ。

「…大丈夫です、幻洛さん…。」
伊丹は密着する幻洛の紺桔梗色の頭を優しく撫でる。
「…僕は幻洛さんを愛しています…。…貴方は僕の、大切な伴侶です。」
長く伸びた彼のフワフワした長髪に指を絡める。
幻洛の髪は、彼の体温と同じようにとても暖かく、心地よかった。

「貴方を拒む理由などありません…。…だから…、」
肩口に伏せられた幻洛のこめかみに唇を寄せる。

「…ぼ、僕の中に、挿れて下さい…。僕を幻洛さんで、満たして下さい…。」

伊丹は幻洛の腰に細い脚を絡ませ、誘うように幻洛を引き寄せる。
押し当たった幻洛の雄が、ドクドクと脈打っていた。

意を決したかのように、幻洛は伏せていた身体を持ち上げる。
「っ…伊丹…、」
伊丹を見下ろす幻洛の金眼が、獲物を食らう獣のようにギラリと輝く。

幻洛は滾った雄を軽く撫で摩り、散々弄ばれ、濡れそぼり柔らかくなった伊丹の雌に当てがった。
そのままグッと腰を押し付け、蕩ける伊丹の中に滾る雄をゆっくりと押し挿れる。
「ひ、ぁ…!」
グチ…、と熱い塊りが入り込む感覚に、伊丹は思わず声を漏らした。

「っ…、く…」
好いた者とは初めて繋がる。
過去の忌々しい記憶を微塵も感じない程、初めて味わう強い快感が幻洛の理性を襲った。

「…っ、は…、奥、進めるぞ…。」
一思いに突き上げ、無茶苦茶に揺さぶりたい欲望を押し殺し、幻洛は眉間に皺を寄せながらグッと奥歯を食い縛る。

「ん、くぅ…っ」
ぐぐ…、と中に入り込む太く熱い雄に、伊丹は幻洛の背を掴みながら耐え凌ぐ。
「っ…、苦しいか…?」
「は、ん…、だい、じょぶ…」
消え入りそうな声で、伊丹は答える。
包帯に巻かれた細い身体を気遣いながら、幻洛は自身の雄をゆっくりと、慣らすように途中で軽く揺すりながら奥へ奥へと進めていく。

グッ…と最後の一突きを押し入れ、幻洛は溜めていた息を一気に吐き出す。
「はっ…、ほら、全部入ったぞ…。」
窮屈そうに自身の雄を咥え込み、ビクビクと奥で震える伊丹の蕩けた雌。

今自分は、最愛の嫁となった伊丹と繋がっている。
そう思うと、幻洛は興奮と嬉しさで益々雄が滾り上がった。
「は、ふ…、い、一々言わなくて、いいですからっ…」
中を圧迫し、ドクドクと脈打つ幻洛の熱い雄。
最愛の旦那となった幻洛と繋がっている感覚に、伊丹は恥ずかしさと嬉しさに涙が零れ落ちる。
その涙を掬うように幻洛は身を屈め、伊丹の目尻に口づけを落とした。

「ひ、ん…!」
幻洛が体勢を変えたことにより、中にある彼の熱い雄が伊丹を刺激した。
まるで尻尾を掴まれた狐のように、伊丹は短く鳴いた。

ゆさゆさと、幻洛は覆いかぶさったまま腰を小さく揺らし始める。
「ん、…伊丹、伊丹…、っは…」
「あ、ぁっ…、ん、げんらく、さ…っ」
互いが互いの名を呼び合い、強く優しく抱きしめる。
敷いた布団の擦れる音が、静かに鼓膜を振動させた。

『耐えられる自信がない』
そう幻洛は言ったものの、なんとか理性を保っているのだろう。
どれだけ伊丹がすがりついても、幻洛は焦らず、傷つけないよう、伊丹と快楽に溺れていった。
そんな幻洛の健気な想いが、伊丹は愛おしくて仕方なかった。

「げん、らくさ、…すき、だいすき…」
嬉しそうに、伊丹の雌が幻洛の熱く滾る雄をきゅっと優しく締め付ける。
「っ…!」
甘く痺れる快感に、幻洛の腰が反射的に揺れ動く。
「は、俺も、伊丹が大好きだ、…っ」
快感を追い求めるように、幻洛の腰の動きが深く激しいものへと変わっていく。
ぐちゅ、ぐちゅん、と互いの愛液が混じり合い、音と快感で互いの思考を麻痺させていく。

「んゃっ…!」
幻洛の先端が敏感なところをグリグリと刺激し、伊丹は背を仰け反らせた。

ぼんやりとした思考の中、幻洛は伊丹と結合している箇所に目を向ける。
みっちりと雄に喰いつき、引き抜けば追い求めるようにぎゅうぎゅうと吸い付き、押し込めば嬉しそうに奥へ奥へと誘い込む伊丹の雌。

見たところによると、伊丹の雄の方は反応が鈍そうだ。
勿論、無反応というわけではなく、遠慮がちに勃ち上がってはいた。
しかし、それ以上に雌の感度の方が高いようで、今や彼の下半身は愛液でぐちゃぐちゃに濡れていた。

自分しか知らない、伊丹の淫らな姿。
その光景に、幻洛の中にある黒い独占欲が沸き立つ。

ああ、伊丹、俺の伊丹。
その身体の呪いなんぞに、俺の伊丹を奪われてたまるか。
呪いで蝕まれた痣以上に、俺の跡を残してやる。

もっと、もっと、俺を欲しがれ。
俺だけを、見ろ。

「ひ、ぁっ…幻ら…っ、だ、め…!」
突然、制止を求める伊丹の声に幻洛の思考が現実に戻される。
欲に溺れ、伊丹に無理強いさせてしまったかもしれない。
スッと、幻洛は一瞬冷静になる。
「…辛い、か…?」
伊丹の嫌がることは極力避けなければならない。
それが嫁という一生の伴侶であれば尚更だ。
わかっている、が…。

目の前には、涙を浮かべながら、溶けきった顔で必死に快楽に抗おうとする伊丹。

ああ、くそ…もっと善がらせたい…。

ドクン…
「や、あっ…!」
ぐっ、と伊丹は覆い被さる幻洛を押し返そうと手を突く。
「そん、なっ…、これ、いじょ…、おっきく、なった、ら…っあ…、ぼく…こわれちゃう…」
「っ…!」
幻洛はギリッ…、と歯を食いしばりながら内心舌打ちをする。

敷布団をギュッと掴み、狐耳を下げながらビクビクと震える伊丹の姿に、幻洛の本能が一気に駆り立てられた。

「は、…そう、煽られると、無理、だな…っ」
もはや幻洛も限界が近かった。
これ以上欲に溺れれば、本気で伊丹を傷つけてしまうかもしれない。
大切な、愛する者と初めての行為を、苦痛で終わらせたくない。
「…止めて、おくか…?」
「…!」
「無理強いは、っ…したくない…からな…。」
幻洛は軽く身を引く。
理性が保っている間に、中断した方が互いのためだ。

ズルズルと、中で圧迫する幻洛の存在が遠のく感覚に、伊丹は焦りを見せる。
「ちが…っ、違う、んです…っ」
引き止めるように、伊丹は幻洛の腰に脚を強く絡ませる。
「やめ、ないでください…。ただ、わからない…、何かが押し寄せて…、」
それは今まで感じたことがなく、呪いが身体を蝕むのと逆の感覚だった。

「イきそうか?」
「イ、く…?」
「達することだ。自然なことゆえに恐れることはない。それに…、」
幻洛は目を伏せながら苦笑いする。
フッと出た吐息が少しばかり震えていた。
「俺も…っ、イきそうだ…」
余裕がないように耳元で囁かれ、伊丹の身体がビクッと跳ね上がる。

幻洛さんも、一緒だ…。
僕が幻洛さんで気持ちよくなっているのと同じように、幻洛さんも僕で、気持ちよくなってくれている…。
ちゃんと”僕”を、感じてくれている…。

嬉しい。

率直に感じる快感と悦びぶ、中に感じる幻洛の熱く硬い雄をキュンと締め付けてしまった。
「ゃ、んっ…」
ドクドクと脈打ち、硬く圧迫する幻洛の雄。
敏感な箇所を刺激する彼の雄の形をまざまざと感じ、伊丹の口から甘い声が零れ落ちた。

「っ…く…」
その甘く痺れる感覚に、幻洛も腰を震わせる。
もはや幻洛の理性は崩壊寸前だった。
これ以上煽られれば、何をするかわからない。

「っ…、続けられそうか…?」
ふうふうと、幻洛は獣のように息を荒げる。
中に埋め込んだ雄が、限界と言わんばかりにギチギチと震える。

「…幻洛さん…っ」
「!!」
突然、伊丹は自ら幻洛の唇を奪う。
儀式の間で幻洛が行ったのを真似るように、舌を割り込み、ぬるぬると絡め交える。
一通り幻洛の口内を舌で弄った伊丹が顔を離すと、つう…、と互いの唾液が口元で糸を引く。
互いを結ぶ途切れない唾液に、伊丹はぺろりと幻洛の唇を舐め上げる。

幻洛の中で抑えていた最後の理性の糸が、プツリと切れる。

「チッ…!馬鹿野郎っ…!」
「あっ…!」
伊丹の脚を抱え上げ、幻洛の腰が再び激しく動き始める。

ぱちゅぱちゅ、と粘着質な音が互いの下腹部から鳴り響く。

「んっ…ぁ、あっ…!げん、ら、っ…あっ…!」
「っは、伊丹…!は、…伊丹、伊丹…っ!」
互いが互いを追い求め、夢中になる。
伊丹は甘えるような声で、幻洛の逞しい身体に腕を回し、強く抱きついた。

彼から放たれる雄の匂い。
快楽に抗う低い唸り声。
欲に呑まれた雄の表情。

契りを結んだ者の強い雄の感覚に、伊丹の思考はクラクラと溶かされた。
もはや自身を蝕んでいる呪いの事など、気にかける暇も無い程に。

幻洛の雄を咥え込み、掻き乱される伊丹の奥底が、ずぐずぐと痙攣し始める。
「や、ぁっ…!げん、らっ…、イっちゃう…ぼく、イっちゃ、あっ…!」
「ん、はっ…伊丹、いた、み…!」
強い快感から逃げる伊丹の腰を掴み、幻洛は容赦なく雄の欲を打ち付ける。

ぱちゅん、ぬちゅぬちゅ、と互いの肌がぶつかり、互いの愛が混じる激しい音が小刻みに部屋の中を木霊する。

「ん、やっ…!ひ、んあぁ…!」
きゅうぅ、と伊丹の中がうねりながら一際キツく伸縮し、幻洛の雄を一層強く締め付ける。
鈍く反応を見せていた伊丹の雄からも、快感の愛液がピュッと弧を描いて噴き出す。
「ぐっ…、ぁっ…!」
柔らかな雌がキツくまとわりつく快感に、ドピュッ、ピュッ、と幻洛の雄から熱い欲が勢いよく放たれる。

「あ、ぅ…っ…」
伊丹は中に熱いものが注ぎ込まれたと同時に、暗く冷たく重たい何かが砕け散ったような気がした。

「は、っ…、いた、み…」
自慰よりも長い射精を終え、幻洛は荒く息を乱す。
経験したことのない強い快感に、幻洛も腰が震えていた。

「は…、ぁっ…」
初めて訪れた強い快感に、暫し放心する伊丹。
下腹部の最奥まで注がれた大量の熱に、ビクビクと腰から尻尾まで震わせていた。
「…すまない、…無理、させたな…」
「ん、だいじょ、ぶ…」
幻洛は気遣うように、伊丹の柳緑色の頭を優しく撫でた。

幻洛は中にある雄を引き抜くために腰を動かす。
「んんっ…」
ズルリ、と中の雄が動き、達したばかりの伊丹は強い感覚に身体を強張らせた。

じゅぽんっ、と粘着質な音を立てながら、熱の残る幻洛の雄が引き抜かれる。
達してもなお硬さの残る幻洛の雄は、伊丹の愛液と自身の欲で白く濡れ、快感に震えていた。

引き抜かれた伊丹の雌は、名残惜しそうにヒクヒクと伸縮していた。
「…っあ…」
とろん、と中に吐き出された幻洛の白濁とした欲が溢れ出る。

僕の中に…幻洛さんのが…。

収まりきれず溢れ出る幻洛の欲に、伊丹は不思議と幸福感に満たされた。

「…伊丹、伊丹…。」
「ん、…。」
溺れるほど喰らった身体を労わるかのように、幻洛は伊丹の首筋から足先まで、ちゅっ、ちゅ、と口付けを落とした。

幻洛に身体中を口付けされるくすぐったい感覚に、伊丹は軽く身動いだ。
「もう…、幻洛さんってば…。」
太腿に優しい口付けを落とす幻洛の頭に手を伸ばし、伊丹はやんわりと静止するように触れる。
「…ああ、すまない…、愛おしくてたまらなくてな…。」
ようやく伊丹と一つになれたんだ…、と、幻洛は幸せそうに笑いながら、予め用意していた清潔な布で伊丹の下腹部を綺麗に拭っていく。
その様子を、伊丹は大人しく、ぼんやりと眺めていた。

誰かにこれ程まで大切にされた事など、今までなかったことだ。

身体を拭き終わった幻洛は、再び伊丹に覆い被さり抱き寄せる。
首筋に顔を埋め、優しく喰むような口付けを落とす。

「…もう少し、俺のワガママに付き合ってくれないか…。」
先程までの雄々しさは何処へやら。
まるで図体だけ大きな子供のように甘え、抱きつく幻洛。
愛おしさのあまり、伊丹の心はキュンと高鳴った。

「フフッ…仕方のない幻洛さん…」
擦り寄る幻洛を甘やかすように、伊丹は幻洛の肩口に軽く口付けを落とす。
「…もっとワガママしていいに決まっているじゃないですか…。」
伊丹は笑いながら、肩に顔を埋める幻洛の紺桔梗色の頭を優しく撫でる。
ふわふわとした質量の多い髪が、伊丹の手を暖かく包み込む。

伊丹の中に残った幻洛の欲が、じんわりと熱を放ち、その存在を主張し続けていた。
それは身体を蝕む呪いとは真逆の、温かく、とても優しい存在だった。

恋愛の、その延長線上にある行為。

最愛の者と、心と身体で繋がる大切な時間。

互いに心地良い余韻に浸りながら、ゆっくりと、静かに、濃厚で甘い時間を過ごしていった。

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